大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成元年(ワ)5641号 判決 1991年12月16日

(登録上の住所)

アメリカ合衆国デラウェア州<以下省略>

(主たる営業所)

英国ロンドン<以下省略>

原告 プルーデンシャル ベーチェトレード サービス インク

右代表者 デビット・アール・コプリー

右訴訟代理人弁護士 本林徹

同 相原亮介

同 原秋彦

同 品川知久

同 古曳正夫

同 久保利英明

同 米正剛

同 末吉亙

同 渡邊肇

大阪府大阪市<以下省略>

被告 日本エス・アイ・シー株式会社

右代表者代表取締役 石井勉

右訴訟代理人弁護士 竹内康二

同 安田修

同 長尾節之

同 荒竹純一

同 野末寿一

同 千原曜

同 野中信敬

同 久保田理子

アメリカ合衆国ワシントン<以下省略>

被告 ステフェン・エム・ソーブル

東京都港区<以下省略>

同 破産者株式会社ピービートレードコーポレーション

右代表者代表取締役 マシュウ・ディ・フォレスト

右両名訴訟代理人弁護士 花輪達也

主文

一、原告が被告破産者株式会社ピービートレードコーポレーションに対し、別紙債権目録記載の破産債権を有することを確定する。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一、請求

主文同旨

第二、事案の概要

一、争いのない事実

1. 被告破産者株式会社ピービートレードコーポレーション(以下「被告破産会社」という。)は、昭和六三年一二月一九日、東京地方裁判所で破産宣告を受け(東京地方裁判所昭和六二年フ第四九二号破産申立事件)、同日、田中斎治が破産管財人に選任された。

2. 原告は、被告破産会社に対し、別紙債権目録記載の破産債権合計一六億〇六九〇万〇九七〇円(以下「本件破産債権」という。)を有する。

3. 原告は、本件破産債権を含む合計二九億四九二二万三四三七円の債権につき、平成元年一月二〇日、破産債権届出を行ったところ、被告らは、同年二月二〇日の右事件の債権調査期日において、届出債権全額につき、それぞれ異議を述べた。

二、争点

本件破産債権を、他の一般の破産債権との関係で劣後的に取り扱うべきか否か。

三、争点についての当事者の主張

1. 被告らの主張

(一)  支配会社の従属会社に対する債権は、左記(1)又は(2)の要件を充足する場合には、他の一般債権に劣後し、一般債権者の債権すべてが弁済された後でなければ支配会社は倒産手続においてその弁済を受けることができない(以下「本件劣後的取扱い」という。)。右取扱いは、破産法第一編第三章「破産債権」及び第四章「財団債権」を支配する債権の優先劣後の基準、同法第六章「否認権」を支配する平等原則(特にインサイダーに関する七二条三号の特別扱い)、会社更生法、判例法、公平、正義等の一般原則並びに条理をその法的根拠とする。

(1) 過少資本の場合

① 結合企業間に支配従属の関係があること、すなわち、株式所有を通じて支配会社が従属会社を管理支配する関係にあること

② 従属会社がその営業内容、規模に照らして過少資本によって運営されており、その不足を支配会社からの借入等により満たしていること

③ 従属会社が倒産し、支配会社が従属会社に対する債権を有していること

④ 従属会社に支配会社以外の一般債権者があること

(2) 不当経営の場合

① (1)①に同じ

② 支配会社が従属会社に対して不当な経営を行ったこと

③ (1)③に同じ

④ (1)④に同じ

(二)  本件の場合

(1) 原告の被告破産会社に対する親会社性

原告は、昭和五九年四月二四日から昭和六二年三月三一日までの間、被告破産会社の全株式を所有していた者であり、被告破産会社は国際貿易金融を目的とする原告の世界戦略上、日本における拠点であり、実質的な支店であるといって差し支えなく、形式的にみても、被告破産会社は、原告の一〇〇パーセント子会社である。

(2) 過少資本性

被告破産会社に所期の営業を行わせるには、当初から被告破産会社の業態においては明らかな過少資本(資本金二億円。設立当初は資本金一億円であったが、昭和六一年三月二六日に一億円増資された。)であった。原告は、過少資本がもたらす多額の金利負担その他の経営上の困難を知りながらも、過少資本のままに被告破産会社を運営し、不足分を自らの貸付金によって補うことと同価値というべき原告の保証による銀行借入れによって被告破産会社の資金繰りを可能ならしめてきた。

(3) 原告の被告破産会社に対する強大なコントロール

原告は、被告破産会社の運営について、同社の設立当時から原告の副社長であったマシュウ・ディ・フォレスト(以下「フォレスト」という。)等の人員を派遣するとともに、代表者であるフォレストの監督、営業成績についての詳細な報告書の提出、取引実行についての許諾等の強力な管理支配を行ってきた。そして、昭和六二年三月三一日当時、被告破産会社の資本金は二億円であり、その成績は不良で、巨額の累積赤字を抱えていたにもかかわらず、被告破産会社の全株式をフォレストに購入させ、被告破産会社がフォレストに貸し付けた二五〇万ドルを含む三五〇万ドルをその代価として取得した(右二五〇万ドルは、現在に至るもフォレストが返済の能力もなく未払いのままに終わっており、被告破産会社にとって貸倒れの状況にある。)。更に、原告は、右株式譲渡契約締結後、被告破産会社の改善・安定を犠牲にして、自らが被告破産会社のために負担している保証債務に関し、被告破産会社をして、右保証付借入債務の弁済をせしめ、その保証による危険を減少させた(昭和六一年一二月三一日当時と昭和六二年一二月三一日当時とを比較すると、保証付借入債務が四四億四八一三万五五九七円から一一億九二八八万一八三七円に激減し、その減少額は三二億五五二五万三七六〇円に達している。)。

(4) 以上のとおり、右(一)記載の要件を充足する原告の被告破産会社に対する債権(本件破産債権)は、他の一般債権との関係で劣後的に取り扱われるべきである。

2. 原告の反論

(一)  被告らの主張は、一定の要件を備えた親会社の子会社に対する債権を劣後的に取り扱うというものであるが、こうした主張が破産手続において認められるべき法的根拠は一切なく、現行法上認められるものではない。

(二)  そもそも、原告と被告破産会社との関係は、被告らが主張する右要件に該当しない。

第三、争点に対する判断

一、本件破産債権は、破産法四六条各号に規定する劣後的破産債権のいずれにも該当せず、かつ、本件劣後的取扱いについて、破産法その他制定法上明確に規定する条文は存在しない。

二、1. 被告らは、制定法上の根拠として、破産法第一編第三章「破産債権」及び第四章「財団債権」を支配する債権の優先劣後の基準、同法第六章「否認権」を支配する平等原則(特にインサイダーに関する七二条三号の特別扱い)並びに会社更生法を掲げる。しかし、前述のとおり、明文の規定もなく、かつ、破産法四〇条の趣旨からすると、現行制定法上、破産法上規定されている優先破産債権、劣後的破産債権及びその他の一般破産債権の三段階以外の劣後的取扱いを受ける破産債権を創設し、規律しようとしていると解することはできない。

2. 被告らは、判例上の根拠として、東京高等裁判所昭和四〇年二月一一日決定及び福岡高等裁判所昭和五六年一二月二一日決定を掲げる。しかし、そのいずれも会社更生手続に関するものであること、破産法と異なり、会社更生法には同法二二九条但書という差別的取扱いを許容する明文が存在することなどからすると、右決定事例は、本件と事案を異にすると認められるので、右決定は、本件劣後的取扱いの法的根拠とはなりえないと考える。

3. 被告らは、倒産法上の一般原則、条理、米国及びドイツ判例法を根拠として掲げる。いずれも本件劣後的取扱いを考える上で参考になるものであるが、未だその要件及び効果が明確になっておらず、我が国における学説上も十分な議論が尽くされているとは言いがたく、発展途上の段階にあるようであるので、現段階の法解釈としては、現行法上本件劣後的取扱いを認めることはできないと解する。

4. したがって、被告らが掲げるいずれの法的根拠によっても、本件劣後的取扱いを認めることはできない。

三、以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、被告らの本件劣後的取扱いの主張は失当であるというべきである。

(裁判長裁判官 稲田輝明 裁判官 山垣清正 任介辰哉)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例